【この夏の星を見る】コロナ禍青春小説の魅力

 【この夏の星を見る/辻村深月】あらすじと感想


目次
  1. あらすじと全体的な感想
  2. 読みながら感じたあれこれ
  3. つぶやき
  4. おすすめしたい人
  5. まとめ

直木賞・本屋大賞受賞作家である辻村深月さんの2023年発表作品。

小説はコロナ渦の夏を舞台にしていますが、実際に執筆されたのもコロナ渦だったということですよね。

過ぎ去ったことを振り返って書くのも難しいのに、自身が体験している真っ最中の出来事を舞台に書くなんて、、、世の中を俯瞰で見る目とそこに生きる人々の重いを掬い上げる腕がある辻村さんじゃないと書けない小説だと思いました。

著者の本は、「朝が来る」「傲慢と善良」「鍵の無い夢を見る」「噛み合わない会話と、ある過去について」「嘘つきジェンガ」などを完読済み!

「嘘つきジェンガ」もコロナ渦が舞台の章があります。本作ほどがっつりではないですけど。

辻村さんは、ミステリーから家族小説、恋愛小説まで幅広く手掛けられていますが、共通して、複雑で繊細でリアル、温度感のある人間描写が素敵で読みごたえがあるな~と思っています。


あらすじと全体的な感想

舞台は2020年、コロナ禍真っただ中の日本。部活動や学校行事が制限される中、全国の中高生たちがオンラインで繋がり、「天体観測コンテスト」を開催する物語です。

コロナ禍でその時々に作られたルールに縛られた中高生たちが、茨城・東京・長崎ーー離れた場所にいてもひとつの夜空を通じて繋がる。
一方で、その夜空の星々も人間が名付け、分類してきた存在であり、夜空の目印となる北極星でさえ何千年もの時を経て移り変わる、という事実に作中で触れているのも、一つのメッセージかなと思いました。

コロナを理由に部活動ができなくなってしまった亜紗、学校に居場所がなくコロナによる学校閉鎖が長引くことを願う真宙、観光業を営んでいることを理由に地域や学校から浮いた存在になってしまった円華。
コロナ渦という非日常がメインにありながらも、日々を生きる中で揺れる繊細な感情があって、それぞれの人生を生きている学生たち。
登場人物それぞれの視点を通すことで、自分自身のコロナ禍学生生活も鮮やかに思い返すことができました。

コロナ禍に限った心情描写ではなく、凛久が「車椅子の人でも使えるナスミス望遠鏡を作りたい」と思ったきっかけとか、コロナがなくても地続きとしてある登場人物の過去がしっかり設定されてあるのも良かったです。

逆に円華がモテモテだったり、綿引先生とはるかうみか姉妹の関係性が思った以上につながってたり、ISSを見るために全国をオンラインでつないだり…小説ならではのてんこもり設定があるのもいい。
それでこそフィクションですから!

本作は2025年9月現在、ちょうど実写化上映中らしいけど、そもそも映像化を見越して書かれたのでは?ってぐらい映像が目に浮かぶ描写が多かった!
亜紗たちが遠隔スターキャッチコンテストをやろうと決める、その話し合いの場面があえて描かれてなかったのも、映画のカットが入ったようで、物語が一気に加速していく感覚を味わえました。

ちなみに映画の公式HPがめちゃ素敵だったのでぜひ!
https://www.konohoshi-movie.jp/

1回目のスターキャッチコンテストで、真宙が「楽しい」と心から感じる瞬間のあとも物語は終わらず、それぞれがわだかまりに向き合いながら新しい環境へ進んでいく姿が描かれたのもよかったです。
普通の小説ならあそこで終わっててもおかしくない、てかそれでも成立しそう。

だけど、コロナによって狂わされた日常も、天体を通じて得られた出会いや経験も、人生のほんの一部にすぎなくて、でもきっと今後の人生でずっと胸に残り続ける時間になる。「この夏」を経て自身を形成する一部になっていく。
「この夏」を特別だけど、非日常にしすぎない感じがいい。

大人サイドのエピソードがあったのもリアル◎
あくまで主役は中高生たちだけど、現実問題子どもたちだけでは実現できない部分もたくさんあるから。

そしてちょっと目線は外れるけど、コロナのような世界を揺るがす出来事さえも、こうして小説の題材として消化されていくのが改めて感慨深かったです。けして悪い意味じゃなくて、エンタメはあらゆる物事を考えるきっかけになるんだなぁと。

ちなみに表紙に書かれていたイラストの登場人物たちはこんな感じ??
晴菜部長の前髪が揃ってる、っていう描写があったから、亜紗の左横は晴菜部長のような気もするけど、天音が表紙にいないことはないよなあってことで消去法的に、、、


読みながら感じたあれこれ

コロナ禍の手探り状態で作り上げた、忘れられない瞬間

明確な基準がなかったからこそ、対応に差が出て、規制や自粛の程度が自分より緩い団体や人を見ると「ずるい」と感じてしまう感覚、めちゃくちゃわかる~~~
感染の可能性がある活動はひとまず一律中止!ってされたのほんともどかしかった。まだ判断早くない?ってこともいっぱいあった。
コロナ禍じゃなかったら悩むこともなかったことにめちゃくちゃ悩まされたよなー

自分もその一人で、「今だけ」「様子見」の年にされてしまった当時はもどかしくて仕方がありませんでした。 
「しばらくはそれもいい」なんてことはなかったし、そう言いたかった、そう言って欲しかった学生たちがたくさんいたはずです。 
しかも凛久一家のように、コロナに対する考え方の違いによって、家族間で距離ができて離婚にまでなるんだから、「様子見」の年のくせして変えたものが多すぎ🙃

私はちょうど大学の合唱サークルで部長をやっていたんですが、合唱なんて一番"密"だし、日常の活動さえ手探り状態でした。 
そんな中でも、歌い手同士の距離を一定に保って、観客数を事前に把握して制限かけたりはじめて配信してみたり…
 同回生はもちろん、ホールスタッフさんや先生方、OBさんにも協力してもらいながら作り上げた、演奏会までの過程、演奏会当日のあの瞬間は忘れられません。 

演奏会後に一回生から「大学に入って一番楽しいと思えました!」「初めての演奏会がこの演奏会でよかったです!」と言ってもらえたことも。
真宙がスターキャッチコンテストで「心から楽しい」と感じた描写で、私も演奏会を開くことで後輩たちに同じような時間を届けられたかなって思えました。 

きっと例年通りでも達成感は感じられたと思いますが、コロナという状況だったからこそ、よりいっそう「楽しい」という気持ちが際立ったのだと思うし、そんな中で演奏会開催を諦めなかった自分を誇りに思えます。

コロナ禍で感じた地方と都市部の温度差

円華が暮らす五島のように、閉じられた田舎では差別的な扱いも多かったと思います。
小説のように都会の方が意外と慣れてしまって規制も"陽性"に対する反応も緩かったりしたし。 
みんなコロナが怖いから、責任を取りたくないから、批判されたくないから――とにかく「自分たちは感染予防をきちんとしている」側でいたかった。代わりに「きちんとしていない」ように見える人を晒して。

私も田舎の出身だからコロナ禍のときはなかなか帰省できませんでした。
円華みたいに地元の人たちのことがすごく好きなわけではなかったから、周りの目線は気にしませんでしたが笑

でも、そこで暮らす私の家族たちからすれば地域の目は気になって仕方がないもので、母親から「今年の夏は帰省やめたら?」と言われたときは、本当に涙が出るくらい辛かった。悔しかった。 
親から「帰って来てほしくない」と暗に言われたようで、それまで無条件に受け入れてくれていた存在を信じられなくなりました。 
もちろん親だって言いたくて言っているわけじゃないのはわかってました。本当は例年通り会いたいって思ってくれてるだろうことも。 

でも都会にいる自分からすれば「別に帰省しても大丈夫じゃない?」って感覚が正直あったからこそ、裏切られたような気持ちにもなりました。 
しかも「帰ってこないで」ってはっきりとは口にしないから、私が「帰らない」って判断するしかないじゃん…って投げやりな気持ちにもなりました。

緊急事態宣言が出てなくても"自粛"が叫ばれる中、個人と世間の感覚に振り回された数年だったと、改めて思います。

「打ち込めるもの」がある青春への羨望

青春小説や人生・人間関係に焦点を当てた作品に出てくる主人公たちは、「すでに強く惹かれているものがあって、それに突き進みたいけれど周りの目も気になってしまう」という設定が多い気もします。本作も漏れなくそう。
そんな真剣に打ち込めるものがある時点で羨ましいな…と、正直劣等感を刺激される部分もありました。
とくに理系高校生たち眩しすぎ、、、かしこすぎ&行動力ありすぎ、、、

私ももっとほかの学校の子たちと関わってみればよかったなー
高校の部活でも大学のサークルでも、他校との交流兼練習の機会はあったのに、学校単位での仲間意識が強すぎて、他校の人たちと練習してても上辺だけでしか距離を縮められなかったのが心残り…

大学選びにしても、やりたいことや興味から選べばよかったのに、将来性や資格、親の仕事といった外側の基準ばかりに影響されてしまって、狭い視野で決めてしまったなあと後悔する気持ちを自覚させられました。

自分が高校生のときにこの本に出会いたかった!!

学生特有の不器用さ

あと印象に残ったのは、円華が心に引っかかるものを抱えながらも小山に「ありがとう」と口にするシーンです。
自分はいつの間にか、そういう違和感を気にしないようになってしまったなと。

学生の頃から、咄嗟に周りに合わせたり相手が求める反応をしようとしたりする癖はありましたが、今ではそれを振り返ることすらなくなってしまいました。
もちろん仕事では必要な素質だし気にしすぎると疲れてしまうから、ある意味では良いことでもありますが…

人との距離感に悩み、ときに感情を拗らせてしまう――そんな不器用さは学生ならではのものだとも思いました。

つぶやき(ページ数メモるの忘れました…)

学校を長期間休むための手段として、「コロナが不安だから」という理由を使わない真宙、本当にえらい!
「自分より切実にコロナを怖がっている人達に会う資格がなくなる」なんて感覚、なかなか持てるものじゃありません。

真宙が柳じゃなくて天音に嫉妬するところ、変に恋愛に結びつけないのがいい。結局簡単に天音にときめいちゃうのも中学生って感じで可愛い。

綿引先生みたいに身内のことを素直に褒められる人間になりたい!そういう大人の方がかっこいい!

森村先生が輿くんを「五島のエース」って誇大紹介しちゃうのあるある。

円華が「気にしすぎ」って言われるのが嫌なのわかるなー!
だって気づいちゃうんだもん。それに鈍感になる方が楽だとしても、そうはなりたくないし。
なのに、どうして「気にしすぎる」自分を責めるような言い方されなきゃいけないんだって。
むしろ「気にかけられるってすごいね」って言ってほしいぐらいだよねー。
→だからこそ、「周りのみんなが気づかないようなことにもよく気づいてくれる」と言ってくれる輿、最高!なんとなく円華のこと好きなのかなとは思ってたけどやっぱり!!
→ほんで武藤お前もかい!!私は輿を応援するけどね絶対!!

コロナ禍でオンラインが急速に進んだことで、直接その場に行かなくても人とつながれるようになったのは大きな変化だったと思う。
そこからその場所そのものに興味を持てることもあって、その感覚は忘れたくないな。

「濃厚接触者の濃厚接触者」今でも笑っちゃう。どこまて気にしなきゃいけないんだよって。

おすすめしたい人

・コロナ禍を学生として過ごした人
・今将来に悩んでいる中高大学生
・青春時代や家族との関係を振り返りたい大人
・「気にしすぎ」と言われて傷ついた経験がある人
・宇宙に興味がある人
・辻村深月作品を初めて読む人
・まっすぐな青春を浴びたい人

まとめ

感情や風景描写も丁寧で、文章を追うだけでも、心がリセットされる作品だと思います。
自分たちの意思でやりたいことを実現して、世界を広げていく学生たちの姿はまぶしすぎるけど…コロナ禍に抱えていた気持ちはもちろん、人間関係や将来への悩みと葛藤を振り返るいいきっかけになりました!
学生自体に読んでいたらどんな感想を抱いたのか…気になるところです。


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