【神に愛されていた】止まらない余韻と感想
【神に愛されていた】止まらない余韻と感想
元放送部の私、なんだか朗読したくなるような一冊だった。
冴理と天音の息遣いや感情の起伏が、スっと脳に伝わってくる。
才能が見出す希望と絶望という壮大に思えるテーマの中で、嫉妬・羨望・自己否認・依存・思い込みなど、身に覚えのある感情がノンストップで描かれることで没入できた。
関西弁ユーザーだからこそ関西弁がごく自然なのもよかった。
重い展開を読みやすくする要素にもなってたし。
関西弁って小説内では良くも悪くも存在感があって、キャラ立ちになる一方で会話以外の地の文と合わないところもあると思ってて。
だけどこの小説はその違和感が限りなく少ない。
地の文自体が関西人の一人称視点っていうのも一つの要因だけど、会話自体が自然なんだよな〜って思ってたら筆者が京都市出身だからなのね!
舞台はがっつり京都中心地だし、文芸部メンバーの名字は全部京都の地名由来だしで、やっぱ京都出身は地元愛強いわ笑
筆者のほかの本は読んだことないけど、かなり自分の体験や感覚、感情、問いに沿った物語を書かれる方ではないかと思う。
筆者あとがきにも馴染みやすい性格が現れていて、実際その人柄というか距離感の近さが読みやすさにつながっている気がするし。
登場人物たちの解像度もすごく高くて、とくに主人公2人には筆者が重ねた想いや愛情を文中ですごく感じられる。
私はやっぱり茉莉やヨーコみたいな人になりたい。
茉莉の冴理を支える献身さやヨーコの目標に向かって努力する姿とかいうより、身近な人が死のうとしているとき(それ程塞ぎ込んでいる時)、多少強引にでもご飯に誘ったり遊ぶ予定を入れたり、そして強引にでもこっち側に連れ戻そうとする人間になりたい。
作家の現実を知れる物語でもあったな。
筆者の体験や苦悩もかなり反映されてるんじゃないだろうか。
天音の才能を「同業者に影響を及ぼす作品を書ける」と表したところで、「神に愛されている」才能の持ち主だと筆者自身が思い浮かべる人がいそう。
作家が書けなくなる「果て」。
小説を書く原動力がなにかによって、小説を書けなくなるその時期や頻度が変わるのかも。
シャープは母親への執心と寂しさ、冴理は自身の膿を出す痛み、天音は理想の形成と冴理の小説に染み込んだ絶望を読み込むことで生まれる希望。
そして作家-編集者(出版社)の力関係についても、イメージとは違う現実を知れた。
作家>編集者のイメージだったんだけどそれは人気作家だけで、新人作家の場合は作家<編集者。
企画の時点で編集者からGOサインが出されないと書かせてもらえない=発行してもらえない。
作家も出版も商売とはいえなんか企画営業職みたい。
文芸部4人の距離感もすごくいい。
多感な青春時代に、同じ好きなものを通して一緒に過ごした子同士でだから成り立つ関係性があるよね〜。
とくに秋子と舞衣の会話は、冴理の心情を読んでいる読者からすると余計愛おしい。
あと冴理と天音は一学年被らなかっただけだから、2人が小説家デビューしたことを知ったらそれこそ間の学年茉莉や秋子たちがご飯会とか開きそうなもんだけど、それをしないあたりがなんていうかすごく文芸部っぽい。
登場人物たちの想いの相関図書きたいな(→好き、→憧れ、みたいなやつ)。
あと前奏間奏後奏が逆なのはなんでなんだろう。音楽に明るい人教えて欲しい。
以下、ネタバレ
いろいろと含みありまくりのProstlude(プロローグ)が読み進めていくうちに綺麗に回収されていく。
・花音=天音の娘
・茉莉の「私なんでもします」
なんかはもちろん、
・世界中を旅する友人=ヨーコ
・マカロン好き
・息ができないほどの劣等感=天音への劣等感
・愛に対する執着=シャープへの恋愛感情
などなど。
「すべてを失くした春の日」は、①シャープと天音が結婚したことを知った日か、②舞衣の結婚式の日(天音に復習すると決めた日)か、③天音が亡くなった日か…いつだろ。
プロローグの時点では①か②かな。
物語としては前半の冴理パートの終盤あたりで、天音が冴理に憧れていること、天音が雨であるという予測は自然と浮かんでくる。
天音のパートではその予測を確信へと変え、各事象を答え合わせしていくって感じだった。
だから帯の「最後に明かされる(?)切ない真実」みたいなものはなかったかなぁ。
でも天音みたいな天才肌で底知れない人って、周りから語られるだけで本人の性格や感情はあまり語られずに終わる小説が多いから、天音視点のエピソードがあるのはすごく好みだった!読後もやもやせずに済みました。
ただこれ、天音→冴理の順で書かれてたら、天音の最終的な印象はだいぶ違ったんじゃないかなと。
冴理→天音の順だったから、冴理に憧れるあまり思い込みと勘違いが激しくなってしまっている天音が不器用で哀れにも映っただけで。
天音の冴理への執着描写から入って、後半で本当は冴理からはとてつもなく嫌われていた、だったら、天音にはもっと病的な印象を持ったはず。
帯にあった、ふたりの女性作家の「希望と絶望、羨望と嫉妬」の物語ではなく、サスペンスチックな物語になってたと思う。
天音の物語は冴理からの視点を読んでからでないと成り立たないというのも、2人が共著した小説に準えてあるんだろうな。
あと意外だったのは、冴理の天音への復讐?が案外冷静に綿密に練られてたこと。復讐するだろう流れも予想はできてたけど、感情的に赤ちゃん誘拐する、とかそういうのだと思ってた。
天音にも茉莉にもとんでもなく愛されていた(ほかの表現が見つからん)冴理。
それを知った上で前半の冴理の物語を読むと、冴理は自分自身を愛するのが下手だったのだなと思った。
天音への羨望と憎しみばかりに捕われて、ずっと応援のメッセージを送ってきていた雨のツイートでは自分を肯定できなかったのもそう。
母親からの愛情に飢えていたというのは間違いなく大きくて、才能がない世間から求められていない自分の存在を認められなかった。
天音の想いと行動を知った後、冴理自身が「私は、気づいていなかっただけ」と感じ入る場面があって少なくとも自分の解釈があっていたようで嬉しい。
茉莉や天音みたいに冴理の小説にズブズブハマってる人も絶対いる…!
冴理は「天音こそが神に愛された存在」だと知り、同時に自分はそうでは無いことに気づき絶望するけど、天音にとっての神は冴理だとすると両者に対してあまりにも皮肉。
冴理に対する世間の評価と天音のそれに差があるように、シャープに対する冴理の評価と天音、世間からの評価に差があるように、才能の有るなしは個人の尺度でひっくり返るし、才能のある人=多数派の尺度で評価された人ってことだ。
冴理視点読んでる時は、
シャープも天音ににとられたの…?えぐない…??ってかシャープのどこがええねん、年上好き女の寂しがり屋なんてマザコンに決まっとるやろ(合ってた)、しょうもない男ほど女を狂わせるんよな💢💢💢
とかキレ散らかしたんですけど、とんだ見当違いでした笑
天音は冴理にとって不要だと思われるものをどんどん排除していってたんだね、母親もシャープも。
けど実際は、天音自身も吐露したように冴理をとられたくなかっただけなのかもしれない。
できちゃった婚した両親に対して、その原因となった子どもである冴理が「私、すごいな」と口にする場面。
出産って人ふたりの人生を変えることなんだって、当たり前のこと改めて思った。
それにより親自身の人生は少なくとも20年、まるっきり変わるわけで。
子どもは時に親に対して「勝手に産んだんじゃないか」って思うこともある。
つまりそれは自分には生まれる/生まれないという決定権はなく、親の選択によって産み落とされた生命だという感覚が強いということなんだけど。
でも計画的に望まれていたわけではない出産の場合(避妊していなかったなどは別として)、誰が決めた訳でもないのにおよそ10ヶ月後には出てきてしまうというのもまた生まれ方の一つで。
結局は、そこで堕ろさなかった親の選択を挟んで子は生まれてくるわけだけども、できちゃったものは堕ろせないって倫理観の人もかなりいるだろうからな…
だからってだから毒親にありがちな「あんたなんか産まなきゃ良かった」発言は許せるものではないけど、出産の強大さを改めて感じたという話。
いくら母親自身の人間性に問題があったとはいえ、大人になって自分のこと「ゴミ」呼ばわりされたら精神壊れてもおかしくはないので、冴理の父親は全然好きになれないけど。
シャープに天音と結婚するということを告げられたときの詳細のシーンがないのは、小説のテンポ感を作るためでもあるし、冴理の思い出したくないという感情ゆえという解釈もできそう。
雨の手紙にシャープのこと書かれてたのが、前半違和感だったんだけど。
雨=天音は想像ついていたとはいえ、冴理に対しては憧れからくる憎しみの感情が強いと思ってたから、冴理が愛する男を奪ったうえでなぜそれに触れてくるのかと。
けど、後半で冴理への憧れ1000%と勘違い具合を知るとわざわざ書いた意味がわかったわ。
天音の光が冴理の闇を色濃くしていたのもまた事実か。
たしかに「あなたを殺したかった」は天音がいなければ書けない小説だったわけだから。
そして「天音がいなくなった世界で」冴理は人気作家になって、そこで小説のエネルギーとなる感情が尽きてしまった。
高熱の天音を見て、さすがにほっとけないってなる冴理には、小説読み慣れてると根が良い子じゃん!全然憎みきれてないじゃん!ってなったけど。
現実そういうもんかも、だれかのこと殺すほど憎みきれる人は少数だし。
とか思ってたら、小説で膿を出し切っていたからってのが大きそうでした。
●天音について
細かいとこだけど、天音とシャープが住んでたタワマン飯田橋って冴理が上京したときに住んでたとこじゃんね。こわ。
興奮を抑えながら冴理の小節を大事に大事に読む描写はすごく素敵だったけど、、、
不器用と思い込みと勘違いがすぎるぞ!
天音が茉莉の編集担当を引き受けたのはちょっと違和感。
出版業界なんて狭いだろうから、冴理が久しぶりに出した小説を担当した編集者が茉莉、ってことは天音も知ってそうやけど。
冴理に異常に固執していたからこそかな。
●茉莉について
茉莉はやっぱり冴理のこと恋愛的にも見てたのね。そして冴理もその想いに気づきながら応えられなかった。
応えられないから作家デビューしたあとはずっと会ってなかったのかもしれないなぁ。
けど命を救ってもらってからは、冴理が生き抜くために(経済面でも精神面でも)茉莉の存在はなくてはならなかったから手放せなくなって。そこから愛情が芽生えたんだと思う。
元々レズではない女性同士がパートナーになっていく形としてはすごく理想系だったかもしれない。
茉莉は仮面夫婦に育てられてきた分仕事で成功しても愛に飢えている中で、冴理への尊愛が募っていったんだろうな。
天音の冴理に対する執着的愛情にも気づいていたけど、天音のことも後輩として好きだったんだろうな。
天音の死の間際に冴理に会わせてあげたんだし。
それとも冴理が「あなたを殺したかった」を渡すだろうと踏んで、わざと会わせたとか有り得る…?
天音の自分に対する嫉妬心にもおそらく気づいてはいただろうし…
茉莉視点の物語読みたすぎる〜〜〜
茉莉は冴理にとって、自分の廃れた心、汚い部分を見せてもそばにいてくれるという確信が持てる相手。
そういう存在こそ結婚相手にふさわしいし、冴理と茉莉は長くお互いを尊重しながら暮らせたみたいだけど、実際冴理みたいな精神不安定な人にとっては茉莉はいずれ攻撃対象になりかねない。
2人が穏やかに暮らせたのは天音が亡くなったというのが大きいだろうな。
●その他
「オペラ」を受け取ったギャルがユキ姉、は地味にびっくり!
冴理が「思い返せば全ての元凶は高校で文芸部に入ってしまったことだったのかも」と振り返るけど、天音との関係の始まりという意味でも当てはまるな。
そんな感じで前半→後半にかけて、かなり細かい描写や物事にも意味を持たせてたから、「(天音が冴理宅に火をつける前にいた)放火魔」も絶対伏線だぞ…!と思ってたんだけど、とくに関係なかったよね?
言葉としてたくさん出てきてたし、既出の登場人物なのかな、とか思ってたんだけど笑
●好きな言葉、表現とメモ(多すぎる)
「でも今の私にはね、もう痛みなどないの。つまりもう書くべきことがないのよ。死への恐怖も、愛に対する執着も、息ができないほどの劣等感も、もはや私にはなにもない」
「血の繋がりほど、厄介で、安心できるものはないのだから」
「パフェグラスの底で、バニラアイスが溶けていく音だけが、静かに鼓膜の内に響いていた」
「母親から必要とされることは、こんなにも自分の存在意義に繋がるのだと知った」
「もしかしたら男の人は、完成品を求めていないのかもしれないと思った」
「もしかしたら人は、愛を受け取ってから、誰かを愛し始めるのかもしれない」
「そう ─── 私は新しかった」
「誰かに話すことで、自分の気持ちにはじめて気が付くことがある」
「私は毎日、自分が生み出した悲しみの妄想のなかで、現実と向き合わなければならなかった」
「支えることはできなくても、痛みを分かち合うことはできるかもしれないと ─── そう思った」
「制服じゃなくなるだけで、なぜ二日以上同じ服を着てはいけなくなるのか」
→スーツもだよねー、地味に不思議な社会的習慣のひとつ。
「あの日、まだ少女だった頃に見たとき、未来みたいだと感じたここは、今はもう、過去でしかなかった」
→大学進学で初めて一人暮らしをした土地に、久しぶりに帰ったときのこと思い出す。
「考え始めると、焦燥感に押しつぶされて、壊れてしまいそうだった」
→この感覚がめちゃくちゃ身に覚えある
「それから小説をよむときは、技術にまで目を通すようになった」
→当たり前だけどエンタメとして読むのと、学ぼうと思って読むのとでは得られるものが違う。本に限らず映像作品や美術作品においてもいえること。もっといえばスポーツにだって当てはまる。自分も何度か小説を書こうとしたことがあったから(二次創作含め)、自分の才能の無さや技巧の狭さに失望したなあ。
「大人になるというのは、果てを知ることなのだと、そう思った」
「小説家でなくなれば、こんなに苦しむこともない」
「私は心のどこかで、自分は特別な少女だと、そう信じながら生きていた」
→自分が活躍できない場からは逃れて生きる方が楽だけど、逃避したという事実を否定的に意識してしまっていたら苦しみは続く。その事実を肯定的に捉えられたとき、「果てを知る」大人になれてしまうんだろう。
だけど私はいつまでも「自分は特別だ」と思いたい気持ちが捨てきれない。いつになったら「大人」になれるんだろう。
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